進化機能解剖学9 肩の進化論2

今回は、上肢帯の起源である「肩帯」について解説していく。

脊椎動物の起源は、ナメクジウオが属する頭索動物であるという説が有力であり、その頭索動物から魚類が誕生した。

魚類の鰭が陸上生活で進化してしたものが手や腕となった。

上肢帯の基部を構成する部分を「肩帯」と呼び、以下の骨で構成される。

肩甲骨

上肩甲骨

前烏口骨

烏口骨

上鎖骨(擬鎖骨)

上上鎖骨(上擬鎖骨)

鎖骨

間鎖骨

ここで挙げた骨は特定の動物群にしか現れない物や、進化の過程で消滅したりする物が含まれており、これら全てを同時に持つ脊椎動物はいない。

間鎖骨以外は左右対である。(1)

まずは魚類の肩帯について紹介する。

コイ科魚類の骨格(2)

上野輝彌・坂本一男(1999)『魚の分類の図鑑』 東海大学出版会 より

上擬鎖骨(20)擬鎖骨(21)肩甲骨(22)烏口骨(23)

頭部側面観(3)

上野輝彌・坂本一男(2005)『新版 魚の分類の図鑑』 東海大学出版会 より

烏口骨(CC)擬鎖骨(CL)肩甲骨(S)上擬鎖骨(SCL)

肩帯とそのいろいろな骨(3)

落合明編(1994)『魚類解剖大図鑑』 緑書房 より

後側頭骨(PT)上擬鎖骨(SCL)擬鎖骨(CL)肩甲骨(S)後擬鎖骨(PCL)烏口骨(CC)

肩帯を構成する骨において、鎖骨群は頭蓋骨後縁部から派生した骨であるため、頭蓋骨と同じく皮骨性骨格である。

その他の骨は内骨格性骨格である。

一部の魚には、俗に「鯛の鯛」と呼ばれる部位がある。

これは胸鰭を構成する肩帯の形がその魚に似ていることが名前の由来とされている。(4)(5)

落合明編(1994)『魚類解剖大図鑑』 緑書房 より
高知新聞朝刊(2013年2月2日) 表情?豊かな鯛の鯛 より

肩甲骨は、鰓裂後方部を構成する骨から派生したものと考えられている。

初期の脊椎動物である魚類の肩帯は、ただ胸鰭を動かすためのものであった。

魚類から両生類への進化で肩帯に起こった最も重要なことは、上上鎖骨が消失したことにより、肩帯が完全に頭蓋から切り離されたことである。

これにより、前肢は自由度が増し、さらに”頚部”が生まれる要因にもなった。(1)

鎖骨群は頭部から切り離された後下方へ下がり、間鎖骨によって左右の鎖骨は連結されることになる。

ヒキガエルの肩帯(1)

1.上肩甲骨 2.肩甲骨 3.鎖骨 4.前烏口骨

魚類では、肩帯は胸鰭を動かす為だけに存在しているが、両生類になると体を支持するという機能も合わせ持つようになった。

陸上では水中程方向転換が容易ではないことから、頸部の自由度が必要になったと想像出来る。

肩帯は頭部からを分離することで、その自由度とロコモーション機能を高めることが出来た。

爬虫類になると、前烏口骨の後方に新たな化骨中心が現れ、それが烏口骨となった。

さらにほとんどの進化系列で上鎖骨は退化傾向を示し、最終的に消失する。

主竜類の系統が内骨格性肩帯として肩甲骨と前烏口骨が基本となるのに対し、単弓類の系統では前烏口骨が退化していき、肩甲骨と烏口骨が内骨格性肩帯の主要な構成要素となっていく。

現生の爬虫類でいうと、肩甲骨・前烏口骨・鎖骨・間鎖骨が肩帯の基本的な構成骨である。

ただし、主竜類は鎖骨も退化の傾向を示すので、ワニ類には鎖骨はない。(1)

ワニの骨格(6)

爬虫類は哺乳類の祖先ではなく、両生類から派生した単弓類が哺乳類の祖先である。

両生類から別に派生した爬虫類から恐竜、鳥類が派生し、哺乳類は別系統の単弓類から派生したのである。

鳥類の基本的な構成は、爬虫類の主竜類と同じである。

ただし左右の鎖骨(とおそらく間鎖骨も)は癒合してV字またはY字形となっており、叉骨 (furcula) または暢思骨 (wishbone) という名で呼ばれることがある。

肩甲骨は薄く細長くなって伸張し、脊椎とおおむね平行になっている。

前烏口骨も棒状に伸張するが、肩甲骨とは異なり強く頑丈になっている。

これは巨大な胸骨に起始し上腕骨に至る強大な飛翔筋が収縮する際の荷重に耐えるためであると考えられている。(1)

ハトの骨格(7)

叉骨(3)烏口骨(4)竜骨突起(6)肩甲骨(19)

単弓類の盤竜類段階で持っていた肩帯構成骨は、肩甲骨・前烏口骨・烏口骨・上鎖骨・鎖骨・間鎖骨の6種であった。

しかし、そこから獣弓類を経て哺乳類に進化した際に失った骨は上鎖骨のみである。

単孔類のカモノハシは肩甲骨・前烏口骨・烏口骨・鎖骨・間鎖骨の5種の骨からなる肩帯を保持している。

現在のヒトを含む真獣類が持っている肩帯構成骨は肩甲骨・鎖骨の2種にまで減少しており、単孔類の肩帯が原始的であるという言われ方をするのはそのためである。

その後の進化の中で、間鎖骨と前烏口骨は消失し、烏口骨は肩甲骨と癒合して烏口突起 (coracoid process) と呼ばれる部位になった。

烏口突起とはヒトではその名の通り鳥のくちばしのように鍵形に曲がった突起であり、むしろ烏口骨という名称が烏口突起に由来している。

それとほぼ時を同じくして、それまでの肩甲骨の前縁から更に前方に筋の付着面が形成され、その新しい付着面を棘上窩、それまで前縁だった部分を肩甲棘、それまでの筋付着面を棘下窩と呼ぶようになった。

最終的には、真獣類の肩帯の内骨格性成分は肩甲骨のみとなっている。一方、皮骨性骨格成分として最後に残ったのは鎖骨である。鎖骨は上腕を様々な方向に回転させる樹上性の動物ではよく発達しているが、有蹄類・食肉類などを始めとした多くの群で消失している。

これは、走行・跳躍など前肢の前後への運動が主となる場合には、肩甲骨遠位部の自由度を大きくしておいた方がよいためであろうと解釈されている。

ヒトの肩帯(1)

哺乳類でもウマ、イヌ、ウシ、ゾウの様な走行性の哺乳類等では退化している場合も多い。

木登りをするネコには鎖骨が存在するが、木登りをしないチーターには鎖骨は無い。

鎖骨がないといわゆる抱きつく所作(前脚を内側に曲げ保持すること)が困難で鎖骨のない動物は木登りができないことから、早期に草原に進出した動物は長距離移動に適応して鎖骨が退化し、長期間森林に生息した動物には鎖骨が残っているのではないかと考えられている。(1)

ネコの鎖骨(8)

鎖骨が残存する必要性は挙上位での上肢のコントロールであり、樹上で生活をする霊長類の鎖骨は退化していない。

ナチュラリゼーションにおける『這うワーク』は、魚の胸鰭から進化した両生類の上肢の動きをモチーフにしており、その上肢の原始的な機能を取り戻す意味があると言えるでしょう。

参考文献

(1)ウィキペディア,https://ja.wikipedia.org/wiki/肩帯,2019年9月27日アクセス

(2)上野輝彌・坂本一男(1999)『魚の分類の図鑑』 東海大学出版会 

(3)上野輝彌・坂本一男(2005)『新版 魚の分類の図鑑』 東海大学出版会 

(4)落合明編(1994)『魚類解剖大図鑑』 緑書房

(5)高知新聞朝刊(2013年2月2日) 表情?豊かな鯛の鯛
  
(6)Wikipedia Crocodilian armor,https://en.wikipedia.org/wiki/Crocodilian_armor2019年6月19日アクセス.

(7)ウィキペディア,https://ja.wikipedia.org/wiki/鳥類の体の構造,2019年9月27日アクセス

(8)Radiographic Signs of Joint Disease in Dogs and Cats,https://veteriankey.com/radiographic-signs-of-joint-disease-in-dogs-and-cats/,2019年9月27日アクセス

進化機能解剖学8 脊柱の進化論

今回のテーマは脊柱である。

ヒトの脊柱は頸椎(7)、胸椎(12)、腰椎(5)、仙骨(1)、尾骨(1)という26個の椎骨から構成される。

直立二足歩行を獲得したヒトの脊柱の特徴は、頸椎、胸椎、腰椎の形態と動きがそれぞれ異なっているということである。

それ故に脊柱は複雑な動きを有しており、脊柱全体としての運動を定量的に簡潔に述べることは難しい。

ヒトの脊柱の機能解剖学は良書に譲るとして、今回は系統発生学的に脊柱の進化を述べていきたい。

ヒトの至るまでの進化の歴史で、どのようにして現在の形態と機能を持つようになったのかを知る意味はある。

脊椎動物の祖である魚類は、約4億6000万年前、古生代オルドビス紀中期に誕生したとされる。

初期の魚類には脊柱は無く、約4億1000万年前に登場したケイロレピスという魚類が脊椎を持つ初めての生物と言われている。

脊椎を持つことで流れに逆らう筋力を身に付け、ミネラルを貯蔵することが出来るようになった。

魚類の脊柱はほぼ直線で彎曲は無く、基本的には側屈運動のみである。

魚類が両生類に進化すると、足が生えたことで脊柱と腰帯を繋ぐ仙椎が分化し、仙椎より前を前仙椎、後ろを尾椎と分化していった。

(1)犬塚則久:ヒトのかたち5億年.東京、てらぺいあ、2001、P63より

陸に上がった両生類は陸から頭を持ち上げることが必要になり、この頃に頸椎の前弯が獲得された。

爬虫類になると、陸から体部を持ち上げることが必要になり、胸椎を後湾させることで体部の重さを脊柱で支持できるようになった。

頸椎の前弯と胸椎の後湾は哺乳類になってからも基本的に変わらず、ヒトを除く霊長類も同様の脊柱の湾曲を持つ。

(2)犬塚則久:脊柱と椎骨の形態学、spinal surgery 28(3)239-245,2014 より

直立二足歩行を獲得した類人猿の中でも、ホモ・エレクトスあたりから腰椎は前弯していった。

この腰椎の前弯は、膝の完全伸展の達成と同時に獲得されたと言われる。

(3)Kummer B. Biomechanik: Form und Funktion des Bewegungsapparates.: Dt. Ärzte-Verlag, 2004. より

個体発生は系統発生と類似するという反復説が正しいとするならば、魚類からヒトに進化するまでの脊柱の湾曲の変化をヒトの個体発生でも繰り返すはずである。

ヒトの個体発生における脊柱の湾曲の変化をここに示す。

(4)犬塚則久:ヒトのかたち5億年.東京、てらぺいあ、2001、P63 より

ヒトの胎児の脊柱は後湾していったおり、乳児期における首がすわると頸椎は前弯する。

そして、幼児期に直立すると腰椎は前弯していく。

ヒトの脊柱の個体発生は、ほぼ系統発生を反復していると言ってよいだろう。

脊柱の湾曲の他にも重要な点がある。

脊柱の動きは側屈、前後屈、回旋という三次元の動きで解析されるが、ヒトの複雑な脊柱の動きは系統発生の進化を時系列に並べることによってその意味を知ることが出来る。

まず魚類の脊柱の形態を次に示す。

(5)Comparative Vertebrate Anatomy Lecture Notes 2 – Vertebrate Skeletal Systems http://people.eku.edu/ritchisong/342notes2.htm より

魚類の椎間関節面は水平面とほぼ並行しており、これは魚類の脊柱が側屈運動に適してることを示している。

脊柱の動きの原型は側屈運動なのである。

次に両生類であるオオサンショウウオの骨標本を示す。

(6)イモリブログ(イモリ・サラマンダーの飼育日誌ブログ)http://blog.livedoor.jp/imoriblog/archives/cat_10037492.html より

両生類でも基本的には側屈運動が主体なのである。

次に爬虫類であるワニの骨格を示す。

(7)Now, on to Mesozoic Marine Reptileshttp://www.quantum-immortal.net/other/lecture2.pdf より

体部を陸から持ち上げたことにより脊柱の湾曲が両生類よりも顕著になっている。

捕食のための顎の運動は脊柱の前後屈を必要とすることから、側屈だけではなく前後屈の動きが獲得されていった。

哺乳類になると速く走るために四肢は直立し、爬虫類よりも脊柱の前後屈の動きは強化されていった。

チーターの走りなどは、脊柱の前後屈のバネを主体に走ることが観察できる。

脊柱の動きに関して、直立したヒトと四足歩行の哺乳類の違いは回旋運動の自由度にある。

ヒトは直立したことにより、視野を確保するために脊柱の回旋運動の自由度を上げる必要があった。

それゆえヒトは正中環軸関節という回旋可動域の高い関節を持つようになった。

(8)Frank H.Netter、相磯貞和訳(2004)「ネッター解剖学アトラス(原書第3版)」株式会社南江堂 より

こういったヒトに進化するまでの系統発生を振り返ると、ヒトの脊柱の形態と機能への理解が深まるであろう。

ヒトの椎骨の形態と機能は、頸椎、胸椎、腰椎によって異なっている。

(9)犬塚則久:脊柱と椎骨の形態学、spinal surgery 28(3)239-245,2014 より

椎間関節面の形態から、頸椎では回旋、胸椎では側屈、そして腰椎では前後屈の可動域が大きく、それからが協調して運動することにより脊柱の複雑な運動のハーモニーを形成していることが分かる。

脊椎動物の数億年の進化の歴史の中でも、直立二足歩行の歴史はまだ数百万年という短い期間である。

我々人間の脊柱は直立二足歩行という実験の途中であり、まだまだ発展途上の段階なのかもしれない。

現代人の脊柱の於ける機能障害の発生頻度の多さから考えると、そのように考えてみるのも妥当であろう。

現代人の生活様式や発達運動の不足などの理由から、現代人の脊柱は機能不全に陥りやすく、したがって適切な機能回復訓練が全人類的に必要とされている。

系統発生の間に用いられてきた脊椎の運動パターンを模倣していくことによって、ヒトの健全な脊柱の機能を取り戻していくことが、ナチュラリゼーションの目的である。

乳幼児の運動発達教育で多大な功績を残された斎藤公子先生が考案されたリズムあそびの「金魚運動」を参考にさせて頂きました。

いわゆる魚類の動きを模倣したワークになります。

参考文献

(1),(4)犬塚則久:ヒトのかたち5億年.東京、てらぺいあ、2001、P63

(2),(9)犬塚則久:脊柱と椎骨の形態学、spinal surgery 28(3)239-245,2014

(3)Kummer B. Biomechanik: Form und Funktion des Bewegungsapparates.: Dt. Ärzte-Verlag, 2004.

(5)Comparative Vertebrate Anatomy Lecture Notes 2 – Vertebrate Skeletal Systems http://people.eku.edu/ritchisong/342notes2.htm2019年7月19日アクセス

(6)イモリブログ(イモリ・サラマンダーの飼育日誌ブログ)http://blog.livedoor.jp/imoriblog/archives/cat_10037492.html2019年7月19日アクセス

(7)Now, on to Mesozoic Marine Reptileshttp://www.quantum-immortal.net/other/lecture2.pdf2019年7月19日アクセス

(8)Frank H.Netter、相磯貞和訳(2004)「ネッター解剖学アトラス(原書第3版)」株式会社南江堂

進化機能解剖学7 股関節の進化論

今回は、股関節の解剖学と機能について系統発生学的に解説してみようと思います。

系統発生学的には、ヒトの手足は魚のヒレから進化したと考えられています。

魚類から両生類に進化した時に、川底や陸上で前進するためにこのヒレは手足へと進化しました。

(2)Clack, J. A. 手足を持った魚たち より

両生類であるカエルとオオサンショウウオの骨格を見てみましょう。

手足は脊柱に対して外側を向き、形態的にも手足は非常に類似しています。

上腕骨と大腿骨の形態も非常に類似しています。

水を掻くためのヒレは、地面を支えるための手足へと進化しました。

そのため、肩と股関節は90度外旋していきました。

爬虫類になると陸上での生活が主になり、体と地面との摩擦を軽減して前進するために、四肢で地面と押す筋力が発達しました。

ワニの骨格をご覧ください。

両生類に比べて四肢の骨がかなり太くなっています。

両生類から哺乳類へと進化する時に、四肢は大きく形態を変えることになります。

四肢が地面に対して直立していくという大進化を遂げました。

Tom Hogervorst, Evie E. Vereecke 2014.Evolution of the human hip. Part 1: the osseous framework.J Hip Preserv Surg. 2014 Oct

Aが爬虫類、Bがネズミのような初期哺乳類、Cがネコやウマのような哺乳類

爬虫類から哺乳類へと進化する過程において、上肢は外旋し、下肢は内旋して両肢共直立していきました。

そういった進化から、哺乳類では肘と膝が向き合う形態になったのです。

その後、哺乳類から類人猿、そしてヒトへと進化していく訳ですが、ここでも大きな大進化を遂げることになります。

四足歩行から、直立二足歩行へという大進化が起こりました。

その中間となる類人猿とヒトの形態的違いを見てみましょう。

Tom Hogervorst, Evie E. Vereecke 2014.Evolution of the human hip. Part 1: the osseous framework.J Hip Preserv Surg. 2014 Oct

類人猿は腰が丸く、膝と股関節も曲がっています。

ヒトは完全な直立を獲得するために、膝と股関節を伸展させ、かつ骨盤を前傾させたのです。

骨盤の前傾によって腰椎も前湾し、安定した直立のために脊柱のS字形を獲得していったのです。

ヒトの個体発生において、進化の歴史は繰り返されています。

赤ちゃんは両生類的な開排位で生まれてきます。

そこから更に股関節を90度外旋した爬虫類の動きは殆ど行いません。

哺乳類的な動きであるハイハイで股関節は内旋するので、爬虫類的なパターンは省略されたものと考えています。

ヒトの股関節が完全に進化したと言えないのは、直立した時に大腿骨頭が寛骨臼から前へはみ出てしまうという点にあります。

形態的には、ヒトは未だに無理をして直立をしていると言えるでしょう。

股関節にとって楽なポジションは、関節面が一致する屈曲位です。

しかし、この屈曲位のまま直立していると、骨盤後傾によって様々な障害を引き起こします。

系統発生に従って、開排位と四つ這いのポジションで、しっかりと股関節を発達させてから直立へと移行することが重要であると考えます。

股関節を正常に発達させるワークの一つである「ずりばい」をご紹介します。両生類の動きをモチーフにしています。

参考文献

(1)第36話私たちの身体に魚の痕跡(その1) タイのタイ, https://blogs.yahoo.co.jp/horitujoy/39886285.html 2019年6月19日アクセス.

(2)Clack, J. A. 手足を持った魚たち――脊椎動物の上陸戦略. 池田比佐子訳. 東京, 講談社, 2000. p.156

(3)ありんこ日記 AntRoom,http://blog.livedoor.jp/antroom/archives/51085457.html2019年6月19日アクセス.

(4)フィットネスクラブ シナジー オオサンショウウオ 骨格, https://ownfitnessclub.amebaownd.com/posts/53118332019年6月19日アクセス.

(5)Wikipedia Crocodilian armor,https://en.wikipedia.org/wiki/Crocodilian_armor2019年6月19日アクセス.

(6),(7)Tom Hogervorst, Evie E. Vereecke 2014.Evolution of the human hip. Part 1: the osseous framework.J Hip Preserv Surg. 2014 Oct

進化機能解剖学6 足の進化論2

足のアーチは、現代ではホモ・サピエンス特有の構造であり、同じヒト科の動物であるゴリラやチンパンジーには無いものである。

(1)

(1)の図のように、チンパンジーの足にはアーチ構造が無く、母趾は大きく外に開いている。

これは樹上生活で枝や蔓を足で掴む行動をしているからである。

我々ヒトとチンパンジーの先祖はおよそ700万年前に分岐したと言われ、ヒトはその後樹上生活を止めて地上へ下りてきたと言われている。

チンパンジーと分岐した後、現在までに発見されている最古のヒト科ヒト属の先祖が「サヘラントロプス」である。

サヘラントロプスはおよそ700〜600万年前に生息していたと考えられている。

年代は少し新しなって、およそ440万年前に生息していたとされる「アルディピテクス・ラミダス」の化石が発見された。

彼らの骨格のイメージはこのようになっていたと想像される。

(2)

彼らは樹上生活と地上生活を行き来していたと想像され、地上では直立二足歩行をしていたようだ。

足の構造も現代のヒトとチンパンジーの中間くらいの構造をしており、母趾は外転していた。

タンザニアのラエトリの370万年前の地層から発見された有名な旧人類の足跡のイメージを次に示す。

(3)

Aは現人類の足跡、Bは現人類が膝と股関節を曲げた歩容で付く足跡、Cがラエトリで発見された足跡である。

Bは直立二足歩行をまだ完全に獲得していない旧人類の歩容を模倣した足跡である。

CがBと異なり、Aと類似していることから、ラエトリの足跡は現人類に近い直立二足歩行を獲得した旧人類のものと考えられてきた。

どの種の人類かを断定することは出来ないが、アウストラロピテクス・アファレンシスの足跡であったと想像されている。

アウストラロピテクスの化石の分布は、人類が発祥したと言われる東アフリカを中心としたアフリカ大陸であったが、200万年前頃から現れたホモ属はヨーロッパやアジア大陸まで進出していった。

これはホモ属の歩行能力がアウストラロピテクスよりも進化していることを示してる。

そして、このホモ属はアウストラロピテクスが行っていなかった狩猟採集生活を始めたのだ。

つまり、ホモ属の足は直立二足で長い距離を走ることに適応したのだ。

外転した親趾は歩行や走行には邪魔でになるため、走ることを得意としている多くの哺乳類は親趾を退化させた。

ヒトの先祖は樹上生活に適応させるために、親趾の機能を進化させてきた。

現代のヒトの手と同じように、物を掴めるように進化させてきた。

樹上生活を止めたヒトの先祖は、陸上での効率的な直立二足歩行のために親趾を退化させるか進化させるしかなかったものと考える。

そして、ヒトの先祖は親趾を退化させるのではなく、内転位に変形させ、前方へ向けることで地面を親趾で押すという進化を選んだ。

歩行時に親趾を背屈させることで歩行の効率を上げていったとされる。

ホモ属だけが足のアーチを獲得し、ウィンドラス機構と呼ばれる直立二足歩行に効率化をもたらす機能を手に入れた。

(4)

このウィンドラス機構によって、重心移動の効率化、着地衝撃の吸収力、そしてバネとしての反発力を得ることができた。

アウストラロピテクス以前の直立二足歩行はチンパンジーと類似した、股関節と膝関節を屈曲させた姿勢だったと想像されている。

ホモ属は足のアーチを獲得することによって、衝撃吸収と反発を股関節と膝に依存させる必要が無くなったのだ。

そして、ホモ属は膝と股関節の完全伸展を獲得し、その結果、腰椎は前湾し、脊柱のS字形を手に入れた。

歩行能力を進化させていったホモ属は、アフリカを出て全世界へと拡散していったのだ。

リーバーマンによると、ヒトは狩猟採集生活で走ることによって足のアーチを獲得したとされる。(5)

しかし、これはまだ仮説であり、走ることで足のアーチが進化したのか、足のアーチを獲得した後に走れるようになったのかは分かっていない。

私の仮説では、足のアーチを獲得した後に走れるようになったのではないかと考えている。

母趾を背屈させて母趾で地面を押すという環境で足の内側アーチは発達していく。

自然環境でのこの動作は、傾斜のある山を登るということである。

私の開発したダイナミックアーチというのは、その環境を模倣して平地で行うものである。

足のアーチの起源を探る旅で私を悩ませてきたのは、ヒトだけが足のアーチを持っているということである。

そのため、ヒトの赤ちゃんが立ち上がって歩くことによって、足のアーチを発達させるものと考えてきた。

系統発生を純粋に反復するとすれば、その理論は正しいはずである。

しかし、ヒトの個体発生の過程を見ると、赤ちゃんは這うときに母趾を背屈させて地面を押しているのだ。

生まれた時はサルのようなアーチの無い足だが、這うときに既にアーチ形成のための準備運動を始めているのだ。

これを模倣した運動がクラシックダイナミックアーチである。

個体発生は系統発生を繰り返すというのが反復説であるが、実際には時系列的に正確に反復するとは限らず、必要に応じて修正されているはずである。

リーバーマンの仮説を信じて、裸足で走る人々が一時的に増えた時代があった。

しかし、大多数が困難に直面して挫折していった現象があり、私は彼の仮説に疑問を抱いてきた。

靴が足の発育に弊害をもたらすことには同意するが、それよりも深刻なことは乳児期に靴下を履き、アーチ形成を阻害する悪習慣である。

レッスン8の足のアーチのワークでは、樹上生活を模倣した足ゆび歩きで足裏の筋肉を発達させるワークを最初に導入した。

その次に、母趾の背屈からの屈曲というダイナミックアーチで足のアーチを形成するワークを導入した。

ヒトの先祖が樹上生活で過ごし、そして大地に降りて直立二足歩行で歩きだしたという進化の歴史を再現したのである。

参考文献

(1)Elftman, H. and Manter, J. (1935a). Chimpanzee and human feet in bipedal walking. Am. J. Phys. Anthropol. 20, 69-79.

(2)Image of Sahelanthropus courtesy of Michel Brunet; drawing of Ardipithecus copyright © 2009 Jay Matternes.

(3)David A. Raichlen, Adam D. Gordon, William E. H. Harcourt-Smith, Adam D. Foster, Wm. Randall Haas, Jr PLoS One. 2010; 5(3): e9769.

(4)Hicks, J. H. (1954). The mechanics of the foot. II. The plantar aponeurosis. J. Anat.88, 25-30.

(5)Daniel Lieberman,The story of the human body:Evolution, Health, and Disease,Vintage,2014

進化機能解剖学5 足の進化論1

系統発生の歴史の中で、人類の先祖が四足歩行から二足歩行を獲得したことで、足の役割は大きく変化しました。

体重の支持を四点から二点に減少させることは、姿勢制御において不利になったと言えます。

人類の祖先は、いきなり四足から二足で立ったわけではなく、樹上でサルのような生活をしてから地上へ降りてきたと言われています。

樹上で、手で枝を掴みながら直立二足歩行と類似した移動様式を学習してきたとも言えます。

地上では、掴む枝もないわけですから、完全に両足二点だけで姿勢を制御しなければならなくなりました。

したがって、足の姿勢制御の機能は、数段階進化したものと考えられます。

踵を地面に着くことで、足を点ではなくて面として機能させることで姿勢制御能力を向上させていきました。

ABCという三点支持で足裏を面として機能させています。(1)

支持基底面を広げて姿勢制御を安定させているわけですが、もう一つ重要なことがあります。

それは、足裏のセンサーとしての機能が、直立二足歩行では必要不可欠なファクターなのです。

人間の足裏の面積は、基底面としてだけ直立二足支持の定性を得るには不十分なのです。

直立二足歩行ロボットASIMOでさえも、足裏の面積は人間のそれよりもかなり広く設計されています。(2)

すなわち、小さい人間の足裏の面積で直立二足支持を制御するには、高度な足裏のセンサーが必要になるのです。

足裏のメカノレセプターという感覚器からは、地面の形状や傾斜、足部の関節の角度、そして圧力などの情報が中枢神経へ伝達されます。

こういった感覚器としての機能のレベルを数段上げないと、直立二足歩行は不可能なのです。

最新鋭の直立二足歩行ロボットATLASは、ロボットには困難だった足裏の二点支持だけでの歩行を可能にして世間を驚かせました。(3)

https://youtu.be/_5PtxHsr038

最先端のロボット技術は、人間に近い動きを可能にしましたが、我々は既にそれ以上の高度なセンサーを足に備えているのです。

では、人間の足に戻りましょう。

足には、26個の骨と沢山の足底筋群が存在します。(4)(5)

(4)
(5)

これらが全て正常に機能しないと、人間の姿勢制御は困難になります。

乳児期の足の発達不良だけではなく、靴を履く生活によって、足の機能は慢性的に制限された状態になっています。

足のセンサー機能の低下は、古いロボットのような動きでしか自身を制御できないこと意味します。

レッスン5の動画に、「裸足ウォーク」というメニューを入れたのは、制限された足の機能を回復させるという意図があります。

参考文献

(1) 中村隆一、斎藤宏、長崎浩(2003)「基礎運動学 第6版」医歯薬出版株式会社

(2) ダンスを踊るASIMO 2011年モデル。Hondaウエルカムプラザ青山にて。,https://ja.wikipedia.org/wiki/ASIMO#/media/File:ASIMO_2nd-gen_model_dancing.jpg2019年5月17日アクセス.

(3) Atlas Walking over Partial Footholds,https://www.youtube.com/watch?v=_5PtxHsr038&feature=youtu.be2019年5月17日アクセス.

(4)、(5) Frank H.Netter、相磯貞和訳(2004)「ネッター解剖学アトラス(原書第3版)」株式会社南江堂

進化機能解剖学4 肩の進化論1

ヒトの肩に関する機能解剖の研究は、昨今問わず、盛んに行われてきました。

しかし、その殆どはヒトを中心に捉えた研究であり、多種との比較解剖学や、系統発生学的に行われた研究は多くはありません。

今回は、ヒトの上腕骨の後捻角の特徴から、系統発生学的に進化の変遷を追跡していこうと思います。

まず、ヒトの上腕骨の形態を眺めてみましょう。

ヒトの上腕骨(前方面)(1)https://commons.wikimedia.org/wiki/File:Humerus_ant.jpg より

上腕骨頭が肘の関節軸に対して後ろに捻じれていますが、これを後捻角といいます。

次に、他の哺乳類の上腕骨を眺めてみましょう。

哺乳類の上腕骨(後方面)(2) 
A:マングース B:ハクビシン C:ネコ D:タヌキ E:ノウサギ F:ニホンザル
http://tanzawapithecus.blogspot.com/2016/09/mysterious-supracondylar-foramen-of.html より

他の哺乳類では、ヒトのような後ろ捻れが殆どないことに気付きます。

四足歩行の哺乳類は、肩甲骨が矢状面近くに位置し、肩の動きも基本的には肩甲平面上で行われています。

次の写真は、国立博物館に保存されている二ホンオオカミの骨標本です。

二ホンオオカミ(3) https://blogs.yahoo.co.jp/j0715jp/9195759.html

二ホンオオカミの肩甲骨と上腕骨の位置関係をヒトのそれと比較してみましょう。

四足歩行の哺乳類は、だいたい二ホンオオカミと同じような肩関節を持っています。

ヒトの祖先は、数百万年前に直立二足歩行を獲得としたとされていますが、直立に伴い肩甲骨が前額面から30度に位置するようになりました。

簡単に表現すれば、肩甲骨が横から後ろに下がったことになります。

そうなると、四足歩行哺乳類の肩の形態のままでは、腕を外を向くことになります。

しかし、その形態では、手を口まで運ぶのは困難になり、捕食動作も困難になります。

私の考えでは、前腕の回内と上腕骨の後捻を獲得していくことで、捕食動作を可能にしていったのです。

一方で、ヒトは肩の自由度を拡大させましたが、上肢の回内・内旋動作により、肩関節は脆弱化していったと考えています。

上腕骨の内捻じれは、いわゆるインピンジメント症候群を引き起こしやすくなります。

ヒトの肩は、機能障害や脱臼を引き起こしやすい構造を持つことになってしまったのです。

肩の後捻角は、成人で平均30度であり、上腕骨頭の骨軸と肘関節の機能軸との差で計測されます。

肩の後捻角(4)

他の哺乳類の捻じれのない上腕骨をこれに当てはめると、後捻角は90度になります。

私が最初に、ヒトを中心とした解剖学と表現した理由は、ここにあります。

系統発生学的に考えれば、後捻角ではなくて、前捻角と表現されるべきです。

ヒトの解剖学の基本的なルールが確立されたのは、おそらく数百年前であったと考えると、ヒトを中心に考えられていたことは想像に難くありません。

昔のルールを踏襲してきたために、この後捻角が意味するところが誤解されてきました。

正確に表現すると、肘は外から内に捻じれてきたのです。

上腕骨の形態や橈骨神経溝の走行からも、その内捻じれを推測できます。

上腕骨(後方面)(5) https://commons.wikimedia.org/wiki/File:Gray208.png より

ヒトを中心に考えるということは、ヒトの体を完成体と捉えてしまう間違いを招きます。

ヒトの祖先は直立二足歩行を獲得することにより、肩に関しては無理な動きを強いられてきたのです。

そのために、ヒトの肩は自由度を拡大させた代償として、その安定性を失ったのです。

ナチュラリゼーションにおける肩甲骨のターンアウトは、系統発生を遡ることにより、肩の安定性を再獲得させる意味があります。

参考文献

(1) Wikipedia,https://commons.wikimedia.org/wiki/File:Humerus_ant.jpg2019,17,April accessed.
(2) 「福田史夫の世界」,http://tanzawapithecus.blogspot.com/2016/09/mysterious-supracondylar-foramen-of.html2019,17,April accessed.
(3) 縄文柴犬の『そら姫様』&飼い主の独り言,https://blogs.yahoo.co.jp/j0715jp/9195759.html2019,17,April accessed.
(4) Greenberg EM et al.2015.The Development of Humeral Retrotorsion and Its Relationship to Throwing Sports.Sports Health.
(5) Wikipedia,https://commons.wikimedia.org/wiki/File:Gray208.png2019,17,April accessed.

進化機能解剖学3 手の進化論

我々人間は、当たり前のように日々手を使っているが、これ程手を自由に使える事は、動物界に於いて特殊である。

手は魚の胸びれから進化したと言われ、動物界では用途は異なっても構造的には相同器官なのである。

wikipedia commonsより

霊長類の手は、他の哺乳類の手と比べて、飛躍的に複雑な機能を有している。

四足歩行から二足歩行への進化と共に手は自由になり、その複雑性を増していったと言えば、一般的には納得しやすいが、それ程単純なものではない。

肉食動物達から逃れるために、一部の哺乳類は木に登り、樹上生活を選択するようになった。

樹上で枝やつるをつたって移動することによって、指を曲げて掴むという手の新たな機能を獲得した。

そして、木に成る果実を引きちぎる為に、握るという機能をも獲得したのです。

しかし、霊長類の手の構造は似てはいるが、その形態はさまざまなのです。

「親指はなぜ太いのか」より

霊長類の種類によって、生活パターンや食べ物も異なり、それに伴い手の形態も異なっています。

遺伝子的にヒトと一番近いとされるチンパンジーの手ですら、人の手とはかなり異なります。

チンパンジーは樹上でつるを伝う生活をする為、親指以外の四本の長い指でつるを引っかけて移動しています。

そして、地上に降りて四足歩行をする時は、ナックル歩行といって指を曲げて手を着くのです。

「親指はなぜ太いのか」より)

しかし、ニホンザルやマントヒヒは手のひらを着いて四足歩行を行います。

「親指はなぜ太いのか」より

そして、我々ホモ・サピエンスの手の特徴は、長くて太い親指なのです。

道具は他の霊長類でも使いますが、ホモ・サピエンスは石器を握るだけではなく、握りながら硬い骨などを強力に叩く生活をしていたのです。

そのため、親指に強い圧が加わり太くなったと言われています。

いろいろな形の石器を握って、操れるように親指の他の指との対向性も増してきたとされています。

指の対向性とは、母指対立運動いう親指と他の指が向かい合う運動のことです。

他の霊長類も指の対向性を持ち合わせていますが、ホモ・サピエンスの比ではありません。

我々ホモ・サピエンスの手の特徴は、自由度が高く、しかも強力に使える親指と言えるでしょう。

それが故に、我々の手は、四足歩行で手を着くことを捨てた今、手の慢性的な硬化を背負わざるを得ないのです。

ナチュラリゼーションは、DNAの設計通りの野生的な体を取り戻すと謳ってきましたが、この手に関しては少し理想からはずれてしまいます。

ホモ・サピエンスは原始の頃から既に、手の硬化は宿命付けられていると考えられます。

手の硬化の解決策として、もう少し進化を遡って、四足で歩く霊長類の祖先の手にその答えを見出しています。

マントヒヒのように手のひらを着いて、手の硬化問題を解決し、母指対立運動によって人間らしい手を取り戻すというスタンスです。

では、手の解剖と機能について重要なところを解説します。

まず手関節を構成する骨の図はこちらになります。

注目すべきは、手関節は橈骨と関節しており、尺骨とは関節していない点です。

そして、手には4種類のアーチが存在します。

基礎運動学第6版より

A 縦方向のアーチ B 横方向のアーチ(手根骨アーチ) C 横方向のアーチ(中手骨アーチ) D 斜め方向のアーチ

これらのアーチを形作る筋肉群は、手関節より遠位に起始停止する内在筋群である。

これら内在筋群は、手のひらをさまざまな形へと適応させる筋群である。

一方、各指を曲げ伸ばしする筋群は、手関節より近位から各指骨へと付着する外在筋群である。

日常での手の酷使により、外在筋優位の手になる傾向があります。

ナチュラリゼーションでは、退化する傾向が強い内在筋群の柔軟性と筋力増強によって、最適な手を回復させる目的があります。

もう一つヒトの手には、特徴的な機能が存在します。

それは母指対立運動を可能にしている、親指の自由度の大きさです。

カパンディ関節の生理学1より

親指の根本にある大菱形骨よ中手骨で構成される大菱中手関節は、鞍関節という自由度の高い関節になります。

鞍関節では、ほぼ360°の可動域を有し、それがヒトの親指の高い自由度を可能にしています。

他の霊長類には無いヒトの手の巧緻性は、この親指が可能にしていると言えます。

ナチュラリゼーションのワークにある母指対立運動と指クルクルワークは、ヒトのヒトたる所以とも言える、自由な手を回復させるワークであるのです。

参考文献

I.A.KAPANDJI、荻島秀男監訳(1986)「カパンディ関節の生理学1上肢」医歯薬出版株式会社

Frank H.Netter、相磯貞和訳(2004)「ネッター解剖学アトラス(原書第3版)」株式会社南江堂

中村隆一、斎藤宏、長崎浩(2003)「基礎運動学 第6版」医歯薬出版株式会社

島泰三(2004)「親指はなぜ長いのかー直立二足歩行の起源に迫る」中央公論新社

進化機能解剖学2 人類の顎の退化とその弊害

今回は、人類の顎の退化とその弊害について解説していきます。

人類は狩猟採集時代には、硬くて大きい食べ物を食べていましが、農業が始まってから調理をするようになりました。

その結果、食べ物は小さくて柔らかいものが主流になり、人類の顎はどんどん退化していったとされています。

そういった退化から、顎が小さくなり、口腔のスペースも小さくなったわけです。

狩猟採集時代の人類の歯は親知らずまでしっかりと生え揃っていたことが分かっています。

口腔が狭くなった現代人は、親知らずだけではなく、その他の歯も真っすぐに生え揃わない割合が高くなっています。

写真1 文明化以前の人骨の歯並びと生え揃った歯

写真2 歯並びの悪い現代人の例

写真1では、親知らずまで含めた32本の歯が綺麗に並んでいます。

写真2では、非先進国から先進国へ移住したある兄弟の写真です。

左の兄は、非先進国に住んでいた期間が右の弟よりも長く、固い自然食を食べて成長したとされる。

右の弟は、発育盛んな幼い時期に先進国に移住したため、加工食品で育ち、そのため歯並びが悪くなったとされる。

口腔が狭くなって歯が綺麗に生えないほど、現代人の顎は退化しているのです。

顎が退化すると、顎は後ろに後退して、気道を圧迫します。

実は、これが一番怖い現象なのです。

気道を圧迫するので、口を開けて舌を前に出さないと呼吸出来なくなります。

写真3 口呼吸による気道の圧迫

要するに、顎の退化が現代人の約半数に及ぶ口呼吸の一番の原因なのです。

口呼吸では、顎が後退し、顔も縦に長くなっていきます。

写真4 口呼吸と鼻呼吸の顔の発達の違い

口が閉じていると、舌は上顎骨の口蓋と密着しています。

この舌と下顎からの下から上へのの圧力で、上顎骨の位置が決まります。

口が開いていると、この圧力が無くなるので、上顎骨は下へと下がり、顔は縦長に成長するのです。

そして、正常な口蓋の形というのは、密着している舌によって形作られていきます。

写真5 口蓋の形成と舌のポジション

口蓋が正しく形成されないと、歯が真っすぐに生えるスペースがなくなり、歯並びが悪くなります。

現代人の顎が退化していった理由は、次のように考えられています。

1.母乳で育てる習慣が減り、吸い付くという運動の不足による口腔の発育不良。

2.調理された食材や、加工された柔らかい食材に偏った食生活による、噛む力の低下。

3.西洋式の食品は、酸性食品が多く、歯の発育を弱体化させている。

4.現代社会は、下を向く作業が多く、正常な顎関節運動に必要な頸椎の前弯が消失していく現象。

ナチュラリゼーションの顎ワークでは、顎関節の可動域を最大限に広げ、口腔のスペースを広げる作用があります。

舌運動の活性化により、下顎を前方へ戻し、気道圧迫を解消させ、正常な鼻呼吸を獲得させていきます。

また、頸椎の伸展と連動させて行うことから、頸椎の生理的前弯を獲得し、顎と頸椎のスムーズな連動運動を回復させていきます。

最後に、口呼吸が惹き起こしうる健康への悪影響を述べます。

1.ドライマウス、ドライリップ、乾燥肌

2.睡眠時のいびきや無呼吸症候群

3.呼吸器疾患と免疫力低下

4.喘息やアトピー性皮膚炎などのアレルギー

5.歯周病と齲歯

6.乳児期の睡眠不良による脳の発達不良から引き起こされる精神疾患

7.歯並びの不良と顔の発育不良

これらの病気や病因を、ヒトが文明社会で生きることによって招いた発達不良と捉え、ナチュラリゼーションによってこれらの発達不良を克服していくことが使命と考えています。

参考文献

Sandra Kahn and Paul R.Ehrlich.(2018).Jaws:the story of a hidden epidemic.

Patrick McKeown(2016).The Oxygen Advantage: Simple, Scientifically Proven Breathing Techniques to Help You Become Healthier, Slimmer, Faster, and Fitter

進化機能解剖学1 顎関節

顎関節(がくかんせつ、英: Temporomandibular joint)とは、頭蓋の下顎窩と下顎骨の下顎頭を連結している関節である。

シンプルなイメージではこのような関節になっています。

詳しい図はこちら。

膝関節や肩関節と同じように滑膜性関節であり、顎関節内には関節円板が存在します。

人間の噛む力はおよそ体重程あり、テコの原理を考えると顎関節面には数倍のストレスがかかる。

咀嚼時には、左右別々の動きをしながらも同時に動くため、その運動の自由度をサポートするために関節円板が必要であると考えられる。

顎関節に作用する主な筋を図で示す。

閉口筋 

咬筋

https://ja.wikipedia.org/wiki/咬筋 より引用

側頭筋 

https://ja.wikipedia.org/wiki/側頭筋 より引用

外側翼突筋(上頭)

https://ja.wikipedia.org/wiki/外側翼突筋 より引用

内側翼突筋 

https://ja.wikipedia.org/wiki/内側翼突筋 より引用

開口筋

顎舌骨筋 

https://ja.wikipedia.org/wiki/顎舌骨筋 より引用

オトガイ舌骨筋 

https://ja.wikipedia.org/wiki/オトガイ舌骨筋 より引用

顎二腹筋

https://ja.wikipedia.org/wiki/顎二腹筋 より引用

外側翼突筋(下頭)

https://ja.wikipedia.org/wiki/外側翼突筋 より引用

咀嚼運動に関しては、閉口と開口があるが、閉口筋が優位に働く事は想像に難くない。

一般的に開口筋は馴染みのない筋ばかりで、その重要度はあまり知られていない。

ナチュラリゼーションの顎ワークは開口運動であり、開口筋群を機能させる事によって閉口筋とのバランスを取る意味がある。

ここで重要な事は、開口筋群の多くが舌骨に付着している事である。

咽頭部の解剖図を次に示す。

開口筋群が付着する舌骨は、気道のすぐ前部に位置している。

そのため筋のバランスによっては、気道を圧迫する可能性が十分にある。

開口が十分に出来ない人間の特徴として、この舌骨の後方への変位が考えられる。

舌骨は舌を動かす筋群とも連動していることから、舌の運動機能不全によっても後方への変位が起こりうる。

さらに特筆すべき事は、この舌骨は下顎と頭蓋骨だけではなく、胸骨と肩甲骨にも筋を介していることである。

下顎、頭蓋骨、胸骨、肩甲骨の4点の中心である舌骨は、この4点の連動性によってその位置が決まると言える。

つまり、顎関節の運動は舌、頸椎、胸骨、そして肩甲骨の動きと連動しているのである。

この連動性の破綻は舌骨の位置を歪め、気道を圧迫しうるのである。

ナチュラリゼーションの顎ワークの意味はここにある。

頸椎の伸展と顎の開口は連動して起こり、顎関節の機能不全はこの連動運動によって改善される。

現代人に多いストレートネックや無呼吸症候群は、別々のものではなく原因は同じであると言える。

顎ワークで正常な鼻呼吸が獲得できるという原理は、4点の連動性により舌骨による気道の圧迫を除去できるからである。