進化機能解剖学2 人類の顎の退化とその弊害

今回は、人類の顎の退化とその弊害について解説していきます。

人類は狩猟採集時代には、硬くて大きい食べ物を食べていましが、農業が始まってから調理をするようになりました。

その結果、食べ物は小さくて柔らかいものが主流になり、人類の顎はどんどん退化していったとされています。

そういった退化から、顎が小さくなり、口腔のスペースも小さくなったわけです。

狩猟採集時代の人類の歯は親知らずまでしっかりと生え揃っていたことが分かっています。

口腔が狭くなった現代人は、親知らずだけではなく、その他の歯も真っすぐに生え揃わない割合が高くなっています。

写真1 文明化以前の人骨の歯並びと生え揃った歯

写真2 歯並びの悪い現代人の例

写真1では、親知らずまで含めた32本の歯が綺麗に並んでいます。

写真2では、非先進国から先進国へ移住したある兄弟の写真です。

左の兄は、非先進国に住んでいた期間が右の弟よりも長く、固い自然食を食べて成長したとされる。

右の弟は、発育盛んな幼い時期に先進国に移住したため、加工食品で育ち、そのため歯並びが悪くなったとされる。

口腔が狭くなって歯が綺麗に生えないほど、現代人の顎は退化しているのです。

顎が退化すると、顎は後ろに後退して、気道を圧迫します。

実は、これが一番怖い現象なのです。

気道を圧迫するので、口を開けて舌を前に出さないと呼吸出来なくなります。

写真3 口呼吸による気道の圧迫

要するに、顎の退化が現代人の約半数に及ぶ口呼吸の一番の原因なのです。

口呼吸では、顎が後退し、顔も縦に長くなっていきます。

写真4 口呼吸と鼻呼吸の顔の発達の違い

口が閉じていると、舌は上顎骨の口蓋と密着しています。

この舌と下顎からの下から上へのの圧力で、上顎骨の位置が決まります。

口が開いていると、この圧力が無くなるので、上顎骨は下へと下がり、顔は縦長に成長するのです。

そして、正常な口蓋の形というのは、密着している舌によって形作られていきます。

写真5 口蓋の形成と舌のポジション

口蓋が正しく形成されないと、歯が真っすぐに生えるスペースがなくなり、歯並びが悪くなります。

現代人の顎が退化していった理由は、次のように考えられています。

1.母乳で育てる習慣が減り、吸い付くという運動の不足による口腔の発育不良。

2.調理された食材や、加工された柔らかい食材に偏った食生活による、噛む力の低下。

3.西洋式の食品は、酸性食品が多く、歯の発育を弱体化させている。

4.現代社会は、下を向く作業が多く、正常な顎関節運動に必要な頸椎の前弯が消失していく現象。

ナチュラリゼーションの顎ワークでは、顎関節の可動域を最大限に広げ、口腔のスペースを広げる作用があります。

舌運動の活性化により、下顎を前方へ戻し、気道圧迫を解消させ、正常な鼻呼吸を獲得させていきます。

また、頸椎の伸展と連動させて行うことから、頸椎の生理的前弯を獲得し、顎と頸椎のスムーズな連動運動を回復させていきます。

最後に、口呼吸が惹き起こしうる健康への悪影響を述べます。

1.ドライマウス、ドライリップ、乾燥肌

2.睡眠時のいびきや無呼吸症候群

3.呼吸器疾患と免疫力低下

4.喘息やアトピー性皮膚炎などのアレルギー

5.歯周病と齲歯

6.乳児期の睡眠不良による脳の発達不良から引き起こされる精神疾患

7.歯並びの不良と顔の発育不良

これらの病気や病因を、ヒトが文明社会で生きることによって招いた発達不良と捉え、ナチュラリゼーションによってこれらの発達不良を克服していくことが使命と考えています。

参考文献

Sandra Kahn and Paul R.Ehrlich.(2018).Jaws:the story of a hidden epidemic.

Patrick McKeown(2016).The Oxygen Advantage: Simple, Scientifically Proven Breathing Techniques to Help You Become Healthier, Slimmer, Faster, and Fitter

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