患者情報:
46歳、女性、ハンガリー人
受傷機転:
2023年1月6日、スキーの滑降時にアイスバーンの上で転倒し、転げ落ちた。立ち上がれず、レスキュー部隊に救助された。
受傷後の経過:
スロバキアからハンガリーに戻り、整形外科を受診した。関節穿刺によって関節液を抜いた。1月9日にMRI撮影を行い、以下の診断を得た。
右膝前十字靭帯断裂(断裂した断端が翻転(Iharaの分類Ⅲ))
右膝内側側副靭帯損傷
右膝外側側副靭帯損傷
1月16日、整形外科を再度受診した。ラックマンテストは陽性であった。その後、膝完全伸展を含む関節可動域訓練を開始した。
1月20日、当院のオンライン治療を開始し、ナチュラリゼーション療法を開始した。
2月17日、再度MRI撮影を行った。膝完全伸展位での撮影であった。今回のMRI画像では、自然治癒は確認できなかった。むしろ、断端同士の距離は広がり悪化していた。脛骨側の断端は、翻転位のまま改善されていなかった。
その後もナチュラリゼーション療法を継続し、5月18日に三回目のMRI撮影を行った。
今回のMRI撮影でも自然治癒は確認されなかったが、医師によるラックマンテストでは陰性を示していた。その後、ナチュラリゼーション療法を中止し、ハンガリー国内で理学療法を開始した。9月18日、4回目のMRI撮影を行った。
今回のMRIでも、大きな変化は無かった。患者は、右膝の可動域制限を有しており、膝の機能障害が残存していた。機能障害を改善するために、運動療法を継続している。2024年2月27日に5回目のMRI撮影を行った。
画像診断医によるレポートでは、前十字靭帯は断裂しているが、僅かに一部の線維が繋がっているという診断であった。患者はは、日常生活をそれなりに送れているが、右膝の可動域制限は残存しており、現在も理学療法を継続している。
考察:
今回のケースは、断裂した前十字靭帯が殆ど癒合しないばかりか、明らかな機能障害が残存しており、自然治癒は失敗したと言える結果になった。考えられる失敗の原因としては4つあると考える。一つ目は、末梢の断裂端が翻転しており、そもそも自然治癒しにくい形態であったこと。二つ目は、関節穿刺によって血種が抜かれていたこと。3つ目は、受傷後早期に完全伸展を含む理学療法を行っていたこと。4つ目は、受傷後早期に2回目のMRIを完全伸展位で撮影したこと。今回の結果を踏まえ、今後の治療法の改善に努めていきたい。
参考文献:
- Ihara H, Miwa M, Deya K, Torisu K. MRI of anterior cruciate ligament healing. J Comput Assist Tomogr. 1996 Mar-Apr;20(2):317-21. doi
- Ihara H, Kawano T. Influence of Age on Healing Capacity of Acute Tears of the Anterior Cruciate Ligament Based on Magnetic Resonance Imaging Assessment. J Comput Assist Tomogr. 2017 Mar/Apr;41(2):206-211. doi
- Pitsillides A, Stasinopoulos D, Giannakou K. Healing potential of the anterior cruciate ligament in terms of fiber continuity after a complete rupture: A systematic review. J Bodyw Mov Ther. 2021 Oct;28:246-254. doi
- Filbay, Stephanie R et al. “Healing of acute anterior cruciate ligament rupture on MRI and outcomes following non-surgical management with the Cross Bracing Protocol.” British journal of sports medicine, bjsports-202