患者情報:
17歳、男性、インド人
受傷機転:
2022年10月19日、サッカーの試合中に、相手にタックルをしかけた時に、右膝を捻った。捻った時に、右膝から断裂音を聞いた。翌日、MRI撮影を行い、以下の診断を得た。
右膝前十字靭帯断裂(断端が離開している(Iharaの分類Ⅲ))
受傷後の経過:
受傷後、膝崩れを何度か繰り返した。装具装着後は、膝崩れは起きていない。インドの病院で、膝の完全伸展を含むリハビリ運動を開始した。11月3日より、オンラインにて当院のナチュラリゼーション療法を開始した。オンライン治療と自宅でのナチュラリゼーション療法を5ケ月間継続し、2023年3月31日に、二回目のMRI撮影を行った。
MRIの結果:
断裂した前十字靭帯は、その連続性を回復し、ある程度の緊張度も保持していた。断裂部分であった大腿骨付着部から1/3辺りの靭帯の太さは細いままであった。(Iharaの治癒分類B)
その後の経過:
その後、筋力トレーニングや可動域回復訓練を行い、日常生活を問題なく送れるまでに回復した。治療開始から一年後の2023年11月3日、三回目のMRI撮影を行った。
MRIの結果:
3回目のMRIの結果は、2回目のものとほぼ同様であり、断裂部の靭帯の太さは細いままであった。
考察:
今回の症例は、断端同士が離開した完全断裂であったが、ナチュラリゼーション療法によって連続性を回復し、自然治癒を達成した。しかしながら、その治癒形態は一部に靭帯の細さが残り、患者のスポーツ復帰には不安が残ることになった。前十字靭帯損傷後、多くの医師は、膝の完全伸展を含むリハビリを早期に指示している現状がある。今回の症例でも、患者は早期に誤ったリハビリを開始していた。受傷後の膝完全伸展運動の有無は、治療成績に影響を与えうる要因と考え、治療成績の統計データを今後も収集していく。
参考文献:
- Ihara H, Miwa M, Deya K, Torisu K. MRI of anterior cruciate ligament healing. J Comput Assist Tomogr. 1996 Mar-Apr;20(2):317-21. doi
- Ihara H, Kawano T. Influence of Age on Healing Capacity of Acute Tears of the Anterior Cruciate Ligament Based on Magnetic Resonance Imaging Assessment. J Comput Assist Tomogr. 2017 Mar/Apr;41(2):206-211. doi
- Pitsillides A, Stasinopoulos D, Giannakou K. Healing potential of the anterior cruciate ligament in terms of fiber continuity after a complete rupture: A systematic review. J Bodyw Mov Ther. 2021 Oct;28:246-254. doi
- Filbay, Stephanie R et al. “Healing of acute anterior cruciate ligament rupture on MRI and outcomes following non-surgical management with the Cross Bracing Protocol.” British journal of sports medicine, bjsports-202