このページでは、スキー滑走中のコブ通過で左膝の前十字靭帯を完全断裂した「ハンガリー人・49歳男性」の症例(症例45)をご紹介します。手術は行わず、ナチュラリーゼーション療法(進化発達運動)によって靭帯の連続性を回復し、追跡の画像検査で良好な所見を得ました。
前十字靭帯断裂の自然治癒療法 / 前十字靭帯自然治癒の症例集
症例45|前十字靭帯断裂から連続性回復までの自然治癒(49歳・ハンガリー人男性)
患者情報
- 年齢・国籍:49歳・ハンガリー人男性
- 受傷日:2023年3月18日
- 受傷機転:スキー滑走中、右ターン時に左膝へ違和感。滑走を継続し、最後のコブ通過時に破裂音を自覚。
- 初期評価:同日X線で骨性異常なし、Lachman陽性。
- 初期装具:当初0–90°装具、3月20日に0–60°装具へ変更。
初期方針と治療開始
- 服薬:抗血栓薬を内服中であったが、自然治癒阻害の可能性を説明し約1か月で中止(主治医と相談)。
- 治療開始:2023年3月27日よりオンライン治療(ナチュラリゼーション療法)を開始。
- 可動域:30–120°を許可
- 歩行:1日3,000歩以内を許可
- 就労:肉体労働を装具装着のまま継続(0–30°回避を徹底)
- 運動:ずりばい・ハイハイ等のナチュラリゼーション療法を1日3回
画像評価(独立読影3名)
MRI①(2023年4月1日)
- Ihara分類:Ⅱが1名、Ⅲが2名 → 多数決はⅢ(断端変位を伴う完全断裂優位)
【Ihara分類 注釈】
Ⅰ=直線的な断裂 / Ⅱ=湾曲した断裂(単純完全断裂) / Ⅲ=断端の変位を伴う断裂 / Ⅳ=断端が不明瞭な断裂
Ⅰ=直線的な断裂 / Ⅱ=湾曲した断裂(単純完全断裂) / Ⅲ=断端の変位を伴う断裂 / Ⅳ=断端が不明瞭な断裂

管理の実際(初期3か月)
- 0–30°域の厳格回避と30–120°の積極的許可で断端近接を図る。
- 限定歩行(≤3,000歩/日)で循環・代謝・線維配向を促進しつつ過伸展・剪断ストレスを抑制。
MRI②(2023年7月28日)
- ACLOAS:1(十分な太さで連続性回復)
【ACLOAS(native 前十字靭帯)注釈】
0=正常(低信号・規則的) / 1=肥厚や靭帯内の高信号を伴うが、形状・連続性は正常 / 2=菲薄化・伸長があるが連続性保持 / 3=欠損し連続性消失
0=正常(低信号・規則的) / 1=肥厚や靭帯内の高信号を伴うが、形状・連続性は正常 / 2=菲薄化・伸長があるが連続性保持 / 3=欠損し連続性消失

結果
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結果:転移のある完全断裂(Ihara Ⅲ)だったが、数か月後のMRIで十分に太い状態で自然治癒した。(ACLOAS1)になった。
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ポイント:仕事を休めず無理のある条件でも、0–30°を避ける動き+歩数制限+自宅運動で靭帯が再びつながった。
考察
長く固定せずに、0–30°の動きを避ける設計とやさしい自動運動(open-chain)を続けた結果、靭帯の端同士が近づき→つながり→並びが整う流れを後押しできた可能性がある。血をサラサラにする薬は早めにやめたことで、治りやすい環境づくりに役立った可能性がある。仕事を続けながらでも、決めた角度と歩き方のルールを守れば自然に治る見込みは十分ある。
まとめ
- スキー中の受傷、Lachman陽性。初回MRIでIharaⅢ優位
- 0–30°回避・30–120°許可、≤3,000歩/日、ナチュラリゼーション 1日3回で管理
- 約4か月後のMRIでACLOAS1へ改善
- 手術なしで連続性回復を確認
参考文献
- Filbay SR, et al. Healing of acute anterior cruciate ligament rupture on MRI following non-surgical management with the Cross Bracing Protocol. Br J Sports Med.
- Ihara H, Kawano T. Influence of age on healing capacity of acute ACL tears based on MRI assessment. J Comput Assist Tomogr.
- Roemer FW, et al. MRI-based assessment frameworks for native ACL integrity (ACLOAS): definitions and longitudinal application. Osteoarthritis and Cartilage.
- Frobell RB, et al. Treatment for acute ACL tear: A randomized trial with MRI outcomes. N Engl J Med.
- Kjaer M, et al. Mechanical loading and tendon/ligament adaptation: implications for rehabilitation. Scand J Med Sci Sports.