患者情報:
30歳、男性、香港人
受傷機転:
2023年8月20日、サッカーの試合中に、ドリブルで相手のタックルをかわした時に、左膝を捻った。その時に断裂音を自覚した。
受傷後の経過:
翌日、ファミリードクターを受診し、MRI検査が必要と判断された。9月12日にMRI検査を受け、以下の診断を得た。
左膝前十靭帯断裂(近位部での断裂、かつ断端同士が離開している(Iharaの分類Ⅲ))
内側側副靭帯損傷 GradeⅠ
外側側副靭帯損傷 GrageⅠ
MRI検査後、理学療法士から指導された機能回復訓練を8日間継続した。指導された運動メニューは、エアロバイク、膝伸展運動やスクワットなどが含まれていた。9月23日より、当院のナチュラリゼーション療法をオンラインにて開始した。12月27日に二回目のMRI検査を受けた。
MRI画像から判断すると、断裂した両断端と後十字靭帯が癒合していた。12月28日に香港にて対面で面会し、ラックマンテスト及びピボットシフトテストを行ったが、両方ともに陰性であった。その後、翌年2月2日と4月27日にMRI検査を行った。
4月27日のMRIに対する画像診断医の見解では、断裂した前十字靭帯は、靭帯繊維の再構成を伴う、緩んで弱った形態を呈していた。5月4日、患者はサッカーのプレーを再開したが、プレー時に足を踏み外してしまい、その時に痛みを伴わない断裂音を聞いた。
考察:
本症例の結果としては、後十字靭帯への癒着を伴う変形治癒であった。変形治癒に至った原因を推測し、2つの原因をここに挙げる。一つは、断裂端同士が離開しているだけではなく、断裂端が不明瞭であった。もう一つは、自然治癒療法の開始前に、手術へ向けたリハビリを既に実施していたことが挙げられる。膝の完全伸展を伴う運動は、自然治癒の妨げになると考えている。今後、症例を更に重ね、膝完全伸展運動を行った群と行わなかった群との治癒成績の比較検証を行うつもりである。
参考文献:
- Ihara H, Miwa M, Deya K, Torisu K. MRI of anterior cruciate ligament healing. J Comput Assist Tomogr. 1996 Mar-Apr;20(2):317-21. doi
- Ihara H, Kawano T. Influence of Age on Healing Capacity of Acute Tears of the Anterior Cruciate Ligament Based on Magnetic Resonance Imaging Assessment. J Comput Assist Tomogr. 2017 Mar/Apr;41(2):206-211. doi
- Pitsillides A, Stasinopoulos D, Giannakou K. Healing potential of the anterior cruciate ligament in terms of fiber continuity after a complete rupture: A systematic review. J Bodyw Mov Ther. 2021 Oct;28:246-254. doi
- Filbay, Stephanie R et al. “Healing of acute anterior cruciate ligament rupture on MRI and outcomes following non-surgical management with the Cross Bracing Protocol.” British journal of sports medicine, bjsports-202